この海と君を守る
厳正な抽選のもと落選した自衛隊観艦式なんですけどね。
で、何気なく、親戚のおじちゃんに電話してみたんですよ。
そしたら、なぜか僕の手元に観艦式の招待券が送られてきましてね。
世の中ってのは不思議なこともあるもんですねえ。
まあ、何だ。
その辺は大人の事情ってヤツですな。
やっぱ、現役の護衛艦乗りってのは頼もしいやなあ。
流石だなあ、三等海佐。
尊敬しちゃいますね。
で、まあ、行ってきたんですよ。
自衛隊観艦式体験航海に。
33歳のオッサンが青少年券を握りしめて。
まあ、しかし何だ。
この手の自衛隊絡みのイベントってのはどうにも朝が早くていけませんなあ。
南北線の始発で出発ですよ。
で、たまんなく眠い目をこすって、赤いGT-Rの異名をほしいままにする京急に乗ってみるってぇと、どうよ。
見渡す限り、行き先が同じ人ばっかでやんの。
もう、見た目でわかるよ。
釣り人並みの重装備で、誰一人釣り竿持ってねえんだもん。
まあ、当然だわな。
で、京急田浦で降りて、ぞろぞろ歩いてる人たちの後ろについて行くと、船越岸壁に着くわけですな。
で、早速、荷物検査を受けて、何食わぬ顔をして青少年券を提示して、乗っけてってもらう船に乗艦するんですね。
ジャーン。
これこそ、海上自衛隊が世界に誇る訓練支援艦『てんりゅう』ね。
まあ、他の艦船に比べれば大分コンパクトではあるんですけどね。
でもまあ、アレよ。
小さくたって正真正銘本物のオーラが出てますよ。
だって、乗った瞬間冷や汗かいたもん。
まあ、山椒は小粒でピリリと辛いってやつですな。
で、とりあえず乗り込んで甲板から周囲を見渡すってぇと、見渡す限りマットグレイの艦船ばっかですよ。
ああ、あと、潜水艦ね。
さも当然のように、当たり前に停泊してやがんの。
凄えなあ、ここは。
で、まあ、そんなこんなで、乗り込んでから出航まで、結構時間があったから、艦内を探検してみたんですよ。
格納庫からキャビン、食堂、休憩室まで。
流石にブリッジに行ったときには「防機ですから立ち入らないでください!」とか言われるかと思ったんですけどね。
そんなことはないのね。
普通に入れちゃいやんの。
で、子供が記念写真とかとってやんの。
まあ、ずいぶんまったりしたもんですなあ。
で、そうこうしているうちに艦尾で旭日旗の掲揚が始まるんですよ。
ラッパの君が代をBGMに。
さあ、もうじき出航ですよ。
エライさんが船首甲板に直立不動になりながら、タグボートに引かれて出航ですよ。
で、船越から出航した護衛艦とともに隊列を組んで相模湾の沖合に突き進んで行くんですな。
その間、他の岸壁から出航した艦隊と合流しつつ、徐々に連合艦隊のような陣容になってくるんですな。
なんちゅうか、凄いぞこれは。
今にも雨が降りそう、っていうか、既に降り出している重い鉛色の空をバックに、巨大な護衛艦が2列縦隊を組んで轟音とともに進んで行くっていうのは。
凄え。
ただただ、凄え。
そうとしか言いようがねえな。
壮観っていうのはこういうことをいうんだな。
なんだか鳥肌がたってきたぞ。
今イチ、自分でも意味が分かんないけど、今、ここで、どんなことが起こったとしても、俺は絶対に死なない気がする。
何一つ根拠のない自信が漲ってきたぞ。
そりゃあ、そうだわな。
護衛艦から掃海母艦、ミサイル艦に潜水艦。
おまけにイージス艦もついてくるという。
こんだけ揃いに揃ってれば、どんなことが起こったって生きて帰ってこれんだろ。
きっと、連合艦隊を率いた東郷提督もそう思ったのかもしれないですね。
で、まあ、一通り、艦隊が勢揃いしたところで、観艦式っていうか、観艦式体験航海の本編が始まるんですな。
観閲艦くらまに向かって、受閲部隊が続々と最敬礼をしながら通過して行くんですな。
で、その間、こっちは観閲付属部隊ですからね。
その最敬礼の背中を見ているという。
で、一通り観閲が終わると、総勢40艦が180度ターンをして帰路に着くわけですね。
で、帰る間に訓練展示をするんですんよ。
ボフォース発射とか潜水艦の潜航と浮上とかIRフレアー発射とか。
で、いつの間にか、親戚のおっちゃんが乗ってるはずの掃海母艦が真後ろに着けてるから、まさかとは思いながら、携帯に電話してみたのよ。
まあ、電話なんか出られるわけねえやな。
なんせテキは仕事中だぜ。
で、あのおっさん。
流石はこの人の親戚だ。
電話に出やがった。
しかも、船首左舷側にいるとかヌカしてやんの。
とはいえ、真後ろとはいっても、流石に肉眼では顔までは判別できねえってのよ。
で、ここで、300ミリの望遠レンズが生きてくるわけですよ。
ああ、アレか?
なんかポケーッと突っ立てるおっさんか?
ああ、大変だ。
こりゃ、忙しそうだ。
邪魔しちゃ申し訳ないや。
で、荒れ狂う波にものともせず、新幹線より快適な乗り心地を満喫しつつ、壮大というほかない艦隊を眺めながら船越に帰って行くんですね。
これで、天気がよかったら最高だったんですけどね。
なんせ、大雨ですからね。
もう、甲板の上は、毛布にくるまって震えてる人たちであふれ帰ってましたからね。
ちょっとした難民船みたいになっちゃってやんの。
そうじゃなきゃ、戦後の引き揚げ船な。
そんなこんなで、遠くにうっすら鋸山が見えてきたらそろそろ帰艦ですな。
で、また、自衛隊の艦船ってのは、着岸してから下りるまでが長いのよ。
着岸してから、待ちに待ってシビレを切らしたころに、帰艦ラッパをガナリだすのな。
で、下艦するころには雨もすっかり上がっちゃって、何となく、自分の日頃の行いの悪さを悔やんでたころ、僕を呼ぶ声が暗闇の中から聞こえてきたんですよ。
おおっ、おじちゃんだ!
三等海佐だ!
暗闇の中で半笑いしてやがる。
久しぶりにあったけど、相も変わらず人に言われなければ自衛隊員とは決して思えない、どっちかっていうと区役所の戸籍係の人みたいだそ。
でも、胸に燦々と輝く沢山の防衛記念章は数々の修羅場をくぐり抜けてきたことを無言で証明してるぞ。
そういや、あのおっさん、こないだまでイラクに行ってたって言ってたしな。
こうして見るとちったあカッコもいいやなあ。
重ねて見直しちゃったわ。
で、そんなおじちゃんに「今日じゃなかったら『ちょうかい』とか『たちかぜ』とかに乗せてやれたのに。」とかなんとか毒を吐かれながらも、そんなおじちゃんにお礼を言いつつ帰ったわけですよ。
まあ、それにしても、あの艦隊の迫力ったらないな。
あんなのは今まで経験したことないね。
もう凄いとしかいいようがないですよ。
観艦式とか観閲とか訓練展示とかってのは、この際どうでもいいね。
そんなモンはオマケですよ。
ええ。
重要なのは40艦が一堂に会したあの迫力。
そして、他に例えようのない壮観さ。
こればっかりは他では決して見ることはできないですよ。
そして、その場所に居合わせて、その空気をも感じ取れたということ。
そして何よりも、隊員のカッコいいことったらないね。
礼儀正しいし、きりっとしてるし、強そうだし、その上適度にダレているという。
これが全てですよ。
ええ。
いやあ、なんとも凄いもんを見せてもらいましたよ。
来年もまた応募しようっと。
次は是非とも晴れた日に行ってみたいですな。























































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